本日の話題は、食卓の主役となることも多い肉類です。まずは結論から参りましょう。
結論
- 鶏肉がコスパ面・健康面で最強。
- 豚や牛を鶏に置き換えると1人あたり1000円/月弱オトク。
- 豚や牛は健康面でのリスクが高く、その中でも特に加工肉はデメリットが大きい。
- 冷凍することのデメリットはあまりない。
- 健康に悪くても食べたいお肉があったっていい。
鶏肉はコスパ面でも健康面でも最強の肉である
日々の食事において、どの肉を選ぶかは健康と家計の両方に大きな影響を与えます。
しかしその答えはシンプルです。鶏肉しか勝たん! 「豚肉や牛肉を鶏肉に置き換える」ことは、コストパフォーマンスの面でも、健康面でも非常に合理的な選択です。 本稿としては、鶏むね肉以外を勧める選択肢はありません。皆さんスーパーで1番安い鶏むね肉を買ってきてください。最強です。あれでいいです。
いきなり結論だけお伝えしても伝わらないので、すこし噛み砕いて行きましょう。
まず、健康面からお話します。これは鶏肉のメリットよりも牛肉・豚肉のデメリットをご紹介したほうがわかりやすいでしょう。
世界保健機関(WHO)の研究機関である国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer : IARC)は、加工肉及び「レッドミート」の摂取により大腸がんのリスクが増加すること、及び加工肉を「グループ1」(人に対して発がん性がある)に、「レッドミート」を「グループ2A」(人に対しておそらく発がん性がある)(注)に分類することをプレスリリース及びQ&Aによって公表しました。
農林水産省webサイト 国際がん研究機関(IARC)による加工肉及びレッドミートの発がん性分類評価について
グループ1に分類されているものは、タバコやアスベストです。それらと同じくらいの確からしさで発がん性があると考えられているのがハムやウインナーなどの加工肉というわけです。加工肉の摂取量が毎日継続して1日50g(シャウエッセンが1袋6本入り117gなのでウインナー3本以上と考えるとよい)を超えると、大腸がんのリスクが18%程度UPします。
加工されていなくても、牛肉や豚肉などの赤い肉(鶏肉は赤い肉ではありません)も、毎日継続して1日100g摂取するごとに、大腸がんのリスクが17%増加することが報告されています。
こうして考えると、鶏肉は牛や豚と比較して素晴らしく健康に良いと言えるでしょう。
次に価格面を確認してみます。
これも実感としてわかると思いますが、部位にはよるものの、スーパーに行って最も安く購入できる肉は鶏肉でしょう。
ちなみに、実際豚肉と牛肉を鶏肉に置き換えた場合の経済的なインパクトはどのくらいのものなのでしょうか? 家庭での食肉購入に目を向けてみます。農畜産業振興機構「令和6年(1~12月)の食肉の家計消費動向によりますと、1人あたりの購入量は牛肉が1.93kg、豚肉が7.57kgです。仮に100g当たりの価格が、鶏が100円、豚肉が200円、牛肉が300円だった場合には、1人あたり953円/月のコストダウンになります。2025年3月の家計調査によると2人以上の家計の食費の平均は91412円/月ですので、3人家族だった場合にはざっくり3%オフといったところです。
数字にしてみるとものすごくコスパが良いわけでもありませんが、入手性や調理の難易度は大差ありませんし、健康面では前述の通り鶏肉が最強です。
というわけで『コスパと健康の栄養学』としては牛肉や豚肉を紹介する理由など無いのです。鶏肉を崇めよ!
一口コラムその1 手羽元のコスパ計算方法
手羽元は骨がついていますので、買った分を100%食べられるわけではありません。手羽元が100g68円で特売していて、鶏もも肉が100g89円だったときにはどちらがお得になるのでしょう?
結論を申し上げると、手羽元100gの価格*1.42≒手羽元可食部100gあたりの単価 です。
手羽元の廃棄率は食品成分表によると30%となっておりますので、覚えやすく計算式にすると上記のようになります。手羽元100gあたり68円の場合は、手羽元の可食部100gあたりの価格は97円となりますので、上の例だと鶏もも肉のほうがコスパが良いということになりますね。
店頭で、単純にコスパ面での比較をするのであれば覚えていてもいいかもしれません。
一口コラムその2 サラダチキンは加工肉なの?
コメントでご質問いただきましたので、項目を追記いたします。
結論「部分的にはそう。自分で作れるならより安心だけど、無理しなくていい」です。
そもそも、加工肉の何が大腸がんのリスクを上げているのかはハッキリわかっていません。殺菌に使っている亜硝酸塩かもしれないし、肉をを燻製すると生成される0多環芳香族炭化水素(PAH)かもしれないし、肉由来のヘム鉄も関係があるかもしれません。この中の、どれか1つがクリティカルに作用しているのか? それとも絶妙な割合が関係するのか? はたまた未知の物体Xが隠れているのか? それは、現代科学で詳らかにできていない部分です。
では、サラダチキンはどうなのか?
まず、上記で紹介した研究は基本的には豚や牛の加工肉を取り上げて研究しています。その段階で、サラダチキンを加工肉と決めるけるのは明確な間違いです。ヘム鉄も、豚肉と比較すると7割程度しか含まれていません。ただし、加熱方法は加工肉と同様の加工をしている製品もあるでしょう。保存方法も同じ亜硝酸塩です。完全一致はしていないけど、部分一致はしているので、生の鶏肉と比較すればリスクは高いと言えます。
ただし、部分一致してれば気をつけると言い出すと、もう万物が食べられなくなってしまいます。フグ毒のテトロドトキシンとキュウリは両方とも8割以上が水分なので、8割一致です。キュウリは8割毒!! きゅうりを食べるな!! とは言わないでしょう?
なので、サラダチキンは危険という結論は、今のところ支持したくありません。今後の研究を待ちましょう。まあ健康を抜きにしてコスパ面でなら自作したほうが良いし、白ごはん.comさんのレシピだと簡単でそこらの市販品よりも美味しく仕上がるのでオススメしておきます。
冷凍しても構わないのか?

結論を申し上げると、冷凍してもいいです。
さて、まず冷凍することのメリットを考えてみましょう。というか、食肉の場合は1つだけですね。保存性の向上です。期限表示のための試験方法ガイドラインによりますと、冷蔵保存の場合は長くても食べられるのは12日程度ですが、きちんと業務用の冷凍施設を使った場合には24ヶ月にまでUPします。これによって安い海外産の肉を食べることができたり、冷凍保存して無駄なく使うことができるようになったりして、結果的にはコスパが良くなるというメリットも期待できます。
なお、これは温度管理が徹底した業務用の環境を想定した期間です。家庭用の冷凍庫では性能や冷凍庫開閉回数が違うので一概には言えませんが、冷凍食品メーカー(例えばニチレイ)では概ね1ヶ月程度で使い切ることを勧めています。私もそのくらいのほうがいいと思います。というか、1ヶ月以上精肉を冷凍庫に放置する段階で、なにか買い物の仕方がおかしいと思います。
冷凍のデメリットはドリップの存在です。食味が落ちたり、水溶性ビタミンの10~30%がドリップに溶出してしまったり、いくつかの問題があります。しかし、業務用の冷凍庫だと急速に冷凍してドリップが少なくなるようにしているし(そもそも精肉コーナーで「ドリップ多いな」て思わなくないですか?)、水溶性ビタミンは大概の日本人は十分量もともと摂れています。気になるなら、ドリップごと味ぽんで煮ちゃえば関係ないぜ!
安い海外産のお肉はまず間違いなく冷凍の工程を経ていますが、それを選んでも何ら問題はありません。スーパーで「こっちのほうがお安いんだけど、解凍肉だから気になる……」なんて心配は無用、価格面のメリットのほうが大きいです。また、冷凍保存することによって買い物の回数を減らせる(余計なものを買わなくなる)というメリットもあるかもしれません。
というわけで、冷凍することによる健康面の効果は±0(あるいは無視できるくらいに小さい)、コスパ面では有利なことが多いので、本稿では冷凍肉に賛成の立場を取らせていただきます。
「じゃあ豚肉や加工肉は食べちゃ駄目なの?」への回答

「豚肉と牛肉、特に加工肉は価格が高いし、健康にも悪い。なので控えるべき食品である」」
これは科学的には正しいです。しかし、いささか極端すぎる気がする言葉にも見えます。こうした食品にどう向き合うべきか? 私見も交えてお話させていただきます。
代わりに何を食べるのかを意識せよ
栄養情報というのは古今東西興味関心をひくもので、いつの時代も「コレが体に良い」「コレは食べちゃ駄目」という情報は広く発信されてきました。本稿で紹介したように科学的根拠に基づいたものであれば、その情報を参考にするのも良いでしょう。しかし、そうした情報を発信する際に「じゃあ代わりに何を食べるの?」という問題を取り扱っていないケースが多いことは気にかかっています。
極端な話、今現在健康な人が加工肉と水しか食べなくなったらおそらく長生きはしにくいでしょう。しかし、今現在健康な人が加工肉をさけて水だけを飲んでいたら、1ヶ月で死にます。
代わりのものを何も食べないという選択は、そもそもある程度真っ当に生きていくための大原則『必要なエネルギー、必要なたんぱく質、必要な食物繊維やビタミン・ミネラルを摂る食生活』を守れなくする可能性があるのです。
なので「これを避けるべきなのはわかったけれど、他のものに置き換えられるかな?」という視点を忘れないでください。本稿の豚肉や牛肉や加工肉は鶏肉に置き換えれば良く、またその置き換えは容易に行えますので取り上げました。
しかし豚肉を食べたからって直ちに健康を害すると主張したいわけではありません。大原則は、ちゃんと栄養を摂ることです。スーパーに買い物に行ったら鶏肉が売り切れていた、豚肉しか売ってない、予算的に魚は厳しい。そういうことであれば「主菜なしにするよりは、豚肉でいいか」というのがバランスの良い考え方だと思います。そういうときには明日鶏肉にすればいいんですよ。
どのくらい健康に悪いのか正確に把握せよ
健康への効果は0か1かではありません。その食品や食生活のリスクを、なるべく正確に把握した上で選択してほしいと思っています。赤身肉の摂取量が100~120g/日増えれば脳卒中が11%増える。それは間違いありません。このデメリットから目を逸らし、自分がどの程度のリスクを取っているのかもよくわからないまま、好き勝手な食生活ををかっくらって病気になって後悔する。そういう生き方は、私の目からは不幸に見えます。
しかし、そのリスクを踏まえてでも食べる理由があると判断したのならば、それは貴方に必要なものなんじゃないでしょうか。「体に悪いことはわかるけれども、ソレを踏まえたうえでも食べたい」というのは真っ当な気持ちでしょう。
個人的には「健康はリソース」と考えております。常日頃から健康を積み重ねておくのは大事ですが、すべてリソース効率を優先すると楽しいことは何一つできなくなってしまう。どの程度体に悪いかを分かったうえで不健康なことをやるのは、人間らしくなおかつ知性にあふれる判断として尊く感じます。
結論
- 鶏肉がコスパ面・健康面で最強。
- 豚や牛を鶏に置き換えると1人あたり1000円/月弱オトク。
- 豚や牛は健康面でのリスクが高く、その中でも特に加工肉はデメリットが大きい。
- 冷凍することのデメリットはあまりない。
- 健康に悪くても食べたいお肉があったっていい。リスクを踏まえてであれば心ゆくまでたべよう。
あらためてですが、以上を本章の結論とさせていただきます。皆様のコスパと健康によい食生活の一助になれば幸いです。
ちなみに私は普段は鶏肉派ですが、キャンプに行くとシャウエッセンとナッツを燻製して酒飲みます。脳卒中11%リスクよりもうまさ優先!
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