完全栄養食だけで生活できるのか?
COMPやベースフードなど「これ一つで栄養が整う」とされる食品は、忙しい現代では大きな魅力があります。
しかし、本当にこれ一つで健康を守れるのでしょうか? 管理栄養士の視点から、完全栄養食の限界と可能性、そして日常での賢い使い方を徹底解説します。
ヨシ完全栄養食に興味がある方、COMPやベースフードを生活に取り入れたい方はぜひ参考にしてください!
結論
- 2025年現在完全栄養食だけで生活することはおすすめできない
- 人類はまだ完全栄養食を作り上げていない
- 完全栄養食は食習慣の自由を広げてくれる夢ある食品である
- 普段の食事の中に完全栄養食を取り入れるのはアリ
完全栄養食とはなにか?
完全栄養食の定義:それだけ食べて長期間健康でいられるもの
そもそも「完全栄養食」「完全食」などの言葉は辞書に載っているものではなく、各企業が独自に定義しています。
この定義がブレてしまうと完全栄養食を語ることができないので、この記事での基準を決めましょう。
端的に言えば「その食品と水だけ食べていれば、10年以上健康でいられる食品」です。一応厳密な定義を定めるならば下記の通りです。
- えいよう研究所が定義する『完全栄養食』
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完全栄養食とは、特定の食品または食品群を適切な量摂取することで、食事が影響しうる範囲での健康が長期間保証される食品を指す。
ここでいう健康とは、栄養によって左右される生理機能が正常範囲に保たれる状態を指す。食事では防ぎえない種類の健康損失は本定義の対象外とする。
完全栄養食は、人の寿命全体を保証する概念ではない。栄養学的な設計が効果を及ぼす時間軸(数か月〜十数年)において、必要な栄養を過不足なく供給できることを条件とする。
消費者の立場から、完全栄養食に求める機能を定義しました。



手軽にこれさえ食べればOK! という安心が欲しいですよね。
自称完全栄養食その1.COMP
COMP公式webサイトより引用「COMPでイイじゃん」 トライアルパッケージ(数量限定)
COMPは、完全栄養食を厳密な栄養素設計で追求するブランドです。
食事というより、サプリメントに近い製品です。栄養素の網羅性と配合の最適化を前面に押し出しています。
粉末・ドリンク・グミなど形態は多様ですが、いずれも「手間をかけずに、ちゃんと栄養」という理念に見合った商品ばかりです。
粉末タイプの味気なさは否めませんが、栄養素を高い解像度で調整しようとしています。



栄養素を調整した「完全栄養食」を、日本の一般消費者に届けようとした初めてのブランドかもしれません。
自称完全栄養食その2.ベースフード
ベースフード公式webサイトより引用 ベースブレッド14袋セット
ベースフードは、日本で「完全栄養食」という概念を一般層に広めた立役者です。
パンやパスタなどの「普段の食事を置き換えやすい形態」に完全栄養食の思想を落としこみ、一般消費者にも受け入れさせました。
完全栄養食というニーズを一気に広げたブランドだと思っています。



私も普段から昼食に利用しています。
完全栄養食であってほしい栄養剤全般
あまり完全栄養食と呼ぶことはありませんが、経腸栄養剤についても述べておきましょう。
管理栄養士業務を続けていると、口から食べられなくなった方を見かけます。そうした方は、胃ろうを作って栄養剤を摂取することがあります。


長期間胃ろうを使って栄養補給をする方は、その栄養剤しか摂取することができません。他の通常の食事を摂れないため、栄養剤には完全栄養食と同じ機能が求められます。



医学の領域で気軽に「病気にならない!」「完全!」と書くと薬事法に引っかかるので、完全栄養食なんて謳い文句では売っていませんけどね。
これらの栄養剤は胃に入れるものですから、当然ながら口から摂取しても平気です。そう、皆様もご家庭でお楽しみいただけるのです!
胃ろうから入れる前提で設計している製品も多いので、特徴的な味の製品が多いですけどね……。


種類はたくさんありますが、その中のひとつニュートリーの「サンエットK2」をご紹介しましょう。
経腸栄養剤生活において栄養素不足はときに致命的な問題にもなりますが、不足しやすい栄養素(カルニチン、セレンなど)をしっかり含有させています。コスパも0.78円/1kcalと優秀(COMPのドリンクタイプは最安でも1.3円/1kcalくらい)。
さすがに極端すぎる選択肢なので、皆様の普段の食卓にオススメしたいわけではありません。ただ、筆者が自宅で栄養剤生活をしなければならないならコレを選びます。
このように、医療分野でも完全栄養食の研究・開発・販売は日夜続けられているのです。
完全栄養食は存在しない!? 現代栄養学の限界
ご紹介した通り、素敵な完全食品があふれています! さあ、皆様も完全栄養食だけを食べて、完璧で幸福な人生を送ろう!



そのような考えは、管理栄養士としては絶対おすすめできません!
じゃあなぜこんな記事書いてるかといえば、完全栄養食の十分条件は判明していないということを伝えたかったのです。
どの栄養素をどのくらい摂ればよいかは判明していない
人体を構成する構成成分とはなんでしょう? それらを維持するには、何をどれだけ食べればよいのでしょう?
少々昔の漫画ですが『鋼の錬金術師』の有名なワンシーンを引用いたします。
ガンガンONLINE鋼の錬金術師第1話より引用
管理栄養士としては「その他少量の15の元素」もキチッと紹介してほしいところです。亜鉛とか、マグネシウムとか、銅とか、カリウムとか、栄養として摂取するのは大事じゃないですか。
まあそれはそれとして。
このように、人体の構成物質はわかっていますが、それらを1日にどのくらい摂取すればよいかは未だ解明されていません。
もちろん目星はついています。
- ビタミンAを摂取する量が一定より少ない国では夜盲症や角膜の病気が増える
- ビタミンB1を摂取する量が少なくなると脚気を発症する
こうした事実を積み重ねて「この栄養素はこのくらいは必要なのかもしれない」と疫学的に推定しているのです。



ですが、所詮は推定にすぎません。
では、真の必要量を求めるにはどうすればいいのでしょうか。


そうなると人体実験が必要になってきます。
このように摂取量を段階的に下げていき、どの時点で欠乏症が出るかを観察すればよいのです。これで「生理機能が破綻しないギリギリのライン」がわかります。科学の進歩だ、やったね!



それで、誰をグループAに割り付けるつもりですか?
倫理的な問題があるのは明らかでしょう。病気になりそうなAグループに割り振られたい人はいないのですから。
したがって、私たちは自然に発生した栄養不足や栄養過多の事例を観察するしかありません。それらを組み合わせることで必要量を推定するという、遠回りな方法を取らざるを得ないのです。
現在の食事摂取基準でも、推定平均必要量(EAR)を科学的根拠にもとづいて算出できている栄養素は、実は全体の半分程度しかありません。必要量が明確に定まっている栄養素は少数派です。
そう考えると「この食品は完全栄養食である」と断言できる根拠は、今のところこの世に存在しないのです。
誰も知らない栄養素Xがあるかもしれない
ある日人類は気が付きました、米は杵と臼でつくとおいしいと。精米という概念の誕生です。
その結果、ビタミンB1を豊富に含む米ぬかを食べなくなり、日本人は脚気に苦しむことになります。このあたりの話は長いので割愛しますが、読み物としても面白いのでWikipediaの『日本の脚気史』をご覧ください。



ここで強調したいのは「人類は意図せずビタミンB1を摂取して健康を保っていた」ということです。
人類はこれまで何度も「理由はよくわからないけれど食べていたら健康になるもの」に助けられてきました。
ビタミンB1だけでなく、未知の栄養素Xや、成分同士の相互作用、調理や食べ方の癖。私たちは気づかぬうちに、体にとって都合のよい行為をしているのかもしれません。
もし食を完全に精製して、(現在判明している)必要成分だけを抽出した完全栄養食に置き換えたならどうなるでしょう?
完全栄養食には、まだ判明していない食の恩恵を摘み取ってしまうリスクがあるのです。
誰にでも100点の食品は存在しない
仕事柄「大人は何kcal摂るといいんですか?」という質問をよく受けます。人によるとしか答えられないんですけど!


この画像のお二人に必要なエネルギーが同じではないことは、直感的にご理解いただけるでしょう。
では、どうしてこのお二人の必要なエネルギー量や栄養量がまったく同じにならないのでしょうか。
理由は単純で、人間の身体はそれぞれに違いがあり、必要とする栄養の量も大きく変わるからです。
たとえば、必要栄養量を左右する要素だけでも、次のようにたくさんあります。
- 必要栄養量が変わる要因
-
- 性別
- 年齢
- 運動量
- 体格
- 持病
- 遺伝的背景
- アレルギーの有無
必要栄養量が人によってこれほどまでに違うのです。たった1種類の完全栄養食で全人類をカバーすることは、現実的ではありません。
夢がある完全栄養食 食はあらゆる意味で自由であるべき
未だ人類は完全栄養食にはたどり着いていない。
では、完全栄養食は不要なのでしょうか? 無価値なのでしょうか?



そんな事はありません。完全栄養食品には使い所と夢があります。
あなたが準備する食事よりも相対的に「完全」に近いかもしれない
完全栄養食は完璧じゃないからな、しっかり自分で食事を準備しないと! でも今日は忙しいから外食で済ませよう。


仕事、育児、趣味、その他の予定──忙しい現代では、毎回きちんと食事を準備するのが難しい場面もあります。
そんなときに完全栄養食で手早く済ませるというのは、十分に合理的な選択肢です。
前の項で述べた通り、毎日毎食同じ完全栄養食を食べると、特定栄養素の不足・過剰のリスクがあります。
しかし、普段普通の食事を食べているけど、忙しいときにだけ完全栄養食を食べることにすればどうでしょう? 多種多様の食品を食べることになるので、特定栄養素の不足・過剰のリスクは低くなることが予想されます。



忙しい朝食だけCOMPを食べる。
お弁当を作るのが大変なので昼だけはベースフード。
これらは上手な完全栄養食の利用方法の1つだと思います。
人類にはディストピア飯を食べる自由がある
食事という行為から完全に自由になった未来を想像したことはありますか? 選択も調理も不要で、必要な栄養が必要なぶんだけ自動で配給される世界。
完全栄養食は、ある意味こうした世界を目指しているとも言えます。
市民、本日の食事です


ああ、今日も親愛なるコンピューターが食事を準備してくださる! なんて幸福なんだろう……。
……そんなふうにディストピアを描く映画、ありますよね! 私はああいうディストピアな世界観の食事シーンが好きなんです。 ソイレント・グリーンのチップスとか、リベリオンのフレークとか!
もちろん、ポストアポカリプスな世界で、缶詰をかき集めたジャンクでギリギリなディストピア飯も素敵です。
でも、やっぱり惹かれるのは高度な管理社会で完全パッケージ化された食事。効率を極限まで追求した結果、選択の自由さえ削ぎ落とされたような食事。あの無機質さと人間味の薄さに胸が高鳴ります。
たとえば『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』。36分頃に登場する完全ペースト食は、ディストピア飯界隈を沸かせました。世界の行き詰まりを、あんなに端的に描き切るなんて……。素晴らしいの一言です。
続く『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でもディストピア飯が登場します(58分頃)。ほとんどペーストなのは変わらないのに、米らしきものや申し訳程度のサラダ・果物が付いているんですよ! どん詰まりの世界でも食を追求してしまう人間のしぶとさを見せてくれるわけです!



くぅ~、これこれ!
……すみません、脱線しましたね。閑話休題。
要は「味気なくて不完全な『完全栄養食』を求めたっていい」と言いたかったのです。
もちろんディストピア飯のような食習慣を強制されるのは不幸だと言えるでしょう。
しかし、一見味気ない食事でも「合理的に食事を済ませたい」「食事以外のことに注力したい」という人にとっては有用なのです。そうした人にとっては、現在の完全栄養食も有用な選択肢になり得ます。
人類には(たとえまだ完全ではなかったとしても)完全栄養食で食事を済ませる権利がある!
まとめ:完全栄養食は今はまだ健康には効かないがそのうち効くようになるかも
- 2025年現在完全栄養食だけで生活することはおすすめできない
- 人類はまだ完全栄養食を作り上げていない
- 完全栄養食品は食習慣の自由を広げてくれる夢ある食品である
- 普段の食事の中に完全栄養食を取り入れるのはアリ
2025年現在において、いかなる完全栄養食もその完全性を証明できてはいません。
それでもなお、筆者はこの完全栄養食という概念には可能性を感じています。今後真の完全栄養食が登場することを願って止みません。
しかし、今はまだその時ではない!
人類が完全栄養食を完成させるその日までは、COMPやベースフードだけで食事を済ませようとする人の横で、しっかり小言を言っていこうと思います。全粒穀物、果物、野菜、魚も食べましょう!



最善を望みつつ今のベストも尽くす管理栄養士のヨシです!






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